ドラゴンズ背番号物語「34」 星野監督とのエピソード編

 星野監督と山本昌との最初の会話(「もうそろそろ全力投球しろ」「これが全力です」)のエピソードは以前も書いた通りです。そこから長い長い星野監督とのお付き合いが始まりました(笑)。

 1988(昭和63)年夏場に帰国していきなり5勝0敗。翌年も9勝9敗と徐々に主力投手への道を歩み始めた山本昌ですが、ここまで、いや現役時代を通じて褒められたことは殆ど無いそうです。思い出は叱られたことばかり。どんなに好投しても「何で初球に打たれたんだぁ!」とか「何でツーナッシングから打たれたんじゃぁ!」とか「投手にタイムリー打たれるとは何を考えとるんじゃぁ!」とか。今の若い投手なら「鬱」になってしまうかも。

 でも山本昌は違いました。勿論、理不尽に感じることも一杯あったらしいですが、星野監督から怒られていると「何とも言えずホッとした」らしいです。それはそうやって怒った後も必ず登板の機会をくれたから。星野監督から何も言われずに知らぬ間に二軍落ちして、果てはそのまま自由契約になっていった投手や野手を沢山、見てきたからです。「選手は使ってもらってナンボ」「正に叱られている内が華」と思っていたそうで、叱られてもめげなかったそうです。

 でも一度だけ星野監督に反抗したことがありました。1996(平成8)年の対阪神戦(ナゴヤ球場)。好投していたのに、最終回に新庄に逆転3ランを打たれ敗戦投手に。外角低めに落ちるスクリューボールを上手にすくった、いわゆる新庄の技ありの一打。その試合後のミーティング。スコアラーが星野監督に出した資料には、山本昌がど真ん中に投げたことになっていて、当然ながら星野監督は大激怒。「ヤマ、お前なんか全く使えんやないか!」と。しかし山本昌も流石にど真ん中に投げたと言われては納得がいかず、思わず「ハイ、使えない投手ですから!」とヤケになって開き直ったそうです。予想外の反応に星野監督が再度、大激怒。今にも掴み合いの喧嘩になりそうな感じになったそうです。そこは何とか島野ヘッドコーチが収めましたが、その後も監督室に呼ばれて1時間のお説教。更にその後、島野ヘッドコーチから「明日の朝、もう一度星野監督の自宅にお詫びに行け」と言われ、本当に渋々翌朝にお詫びに行ったそうです。

 星野邸に到着し玄関のチャイムを鳴らすと、星野監督は「ん?どうしたんだ?」と第一声。「改めて昨夜のことをお詫びに来ました」と山本昌が言うと、「ま、上がれ」と応接室に上げてくれました。娘さんがコーヒーを出すと、星野監督が娘さんに「ん?山本さんはコーヒーよりも紅茶の方が好きなんだよ。紅茶に変えてあげて」と言いました。その時山本昌は「山本<さん>って誰?それにコーヒーよりも紅茶の方が好きだなんて、星野監督に話したこともないのによく知ってるなぁ」とビックリしたそうです。そして5分も経たないうちに星野監督から「明日からの東京遠征の準備もあるやろ。もう帰れ」と言われ、その場は終了。その後もこの話が蒸し返されることは全く無かったそうです。ま、この自宅お詫びの件は、後々にしこりを残さないために星野監督と島野ヘッドコーチが考えた筋書きなんでしょうね。

 さすがに星野監督第二次政権になって、山本昌は殴られることはなくなりましたが(結婚して一家の主となっている選手は殴らないと決めていたため)、それでも叱られ役は山本昌。若い投手が何かをしでかすといつも「マサ、お前がついていながら何をやっとるんじゃぁ!」と全員の前で叱られたそうです。「えぇ?この件でもオレが叱られるんですか?」と内心は思いつつも、何故か叱られ役になっていることが嬉しかったそうです。

 星野監督が阪神に移った時も「チームは変わってもグランドで星野監督にまた会える」と思うと、何とも嬉しかったそうです。節目の勝利の時は両親よりも先に星野監督に電話で報告していたそうですが、特に褒められることもなく「そうか、まだまだ頑張らんといかんぞ」と言われるだけ。ただ通算150勝を挙げて星野監督の通算勝利数146勝を超えた時には、ナゴヤドームのビジター監督室で超高級時計をプレゼントされたそうです。恐れ多くて使えなかった(今も?)らしいですが(笑)。

 現役引退を決めた時も勿論、いの一番に星野監督(当時は楽天球団の副社長)に電話で報告しました。この時初めて「そうかぁ、マサはよくがんばったもんなぁ。丈夫な体を授けてくれた両親にも感謝せんとな。うん、お疲れさん、お疲れさん」と予想外に褒められたので、電話口で直立不動で泣けて泣けて仕方がなかったそうです。泣かせる師弟関係であり、泣かせる話ですよね。

 これ以外にも、

●山本昌がFAの権利を取得した時に星野監督が「ワシはそんな教育はしとらん!」とまるでFA宣言をするのが犯罪者の様に言われたこと。●山本昌が現役引退後に、講演時に話す星野監督とのエピソードが好評を得ている、と知った星野監督が山本昌に「お前、オレの話でエライ儲けとるそうやないか」と脅されて(?)、メチャクチャ恐縮してしまった話

とかまだまだ沢山ありますが、本当にキリがないのでここら辺で止めますね(笑)。長文を最後まで読んでいただきまして、誠にありがとうございました。